扉の外III

扉の外〈3〉 (電撃文庫)
土橋 真二郎
メディアワークス
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雑惑

・おい、↑の書影見てみろよ。すばらしいだろ? つまりは、そういうことだ。
・中心となる人間のいない状況は初めて?
いや、物語の主体は明確なんだけど、「リーダーシップを執る人間」がいないのはシリーズで初めてじゃない? 「主人公以外が愚昧杉」ってのはまぁ、ないでもなかったので、水準を下げるという解決っすか。ふむ。


でありながら、状況をシビアにとらえているのは美鈴だけ、みたいな。
そんな中でも、美鈴が「共同体の範囲」を、厭いながらも二組という範囲に設定したのが評価しづらい。非常時の英雄願望とでも言えばいいのだろうけど。ぬーん。


・それにしても、いつになく心理に重きを置いた話だった。いつもそんな感想書いてる気がするけど。


・「マイ」と聞いてツァラトゥストラとのリンクをめっちょ期待したけどなかった。そういう遊びは期待したらいかんかなー。


・って、今気付いたんだけど、あらすじ紹介に「シリーズ完結編」とか書いてある。そんなバカな……!

「扉の外」とはどこの外か

大きく分けて2つ。


・作中人物たちが囚われていた場所の外
・「誰も信じられない!」という自分で作り上げた檻の外


そして後者を更に「人間」と「著者」に分けることができる。
物語で描いていたのは前者。で、その実、その前者を描く事で、著者自身が後者の「扉の外」に出ようとした作品だったと思う。
前者を描く事で後者を描いた物語なんだよね。


前提として、この作品の元々の題名が『もしも人工知能が世界を支配していた場合のシミュレーションケース1』であることを忘れてはいけないのだけど。これはまぁ、前者の問題。*1


やっぱりこの作品を「読んだ」という記録を残しておくなら、後者に触れておかずにはいられない。
この扉の外は、とことん懐疑と醜悪の物語。


「人は自分の利のためにしか動かない」
「平和は緊張状態の上にしか成り立たない」
「疑って疑って疑って、その後に疑え」
「欲。権力欲。支配欲。」
「コミュニケーションには攻撃か降参しかない」


こんなのばっか。(笑)
「ゲーム」という緊張状態の中で、作中人物たちがこういった人間の汚いところをでろでろさせながら物語が進んでいくのだけれど。
そしてそれこそが人の本来の形であると、主人公たちは確信しながら(そして諦めながら)、前へ上へと這いずっていく。


で。
問題は、著者が人間の本質をこーゆー「こんなもんだよ 人間駄物 みつを」と一句詠む勢いで諦念しまくってることなんだよね。
そしてそれが、『扉の外』最大のみりき。


この作品を1点に絞って批判するならば、最後の最後に救いを描いてしまったこと*2
いやさ、さっき「シリーズ完結」であったことを知った(笑)身で言うのもなんだけど、「こういう終わり方」をすることで、「『扉の外』なんぞないぜ」、ということなら、最大限私はこの作品を賛美するけどね。*3

*1:舞台観が別に最後の方で明示されちゃったし

*2:ゲンミツに言うと、1巻の終わりは少しアナキズムの訴えを感じたけど。

*3:<「こういう終わり方」をすることで、「『扉の外』なんぞないぜ」、ということ>と明言できないのは、美鈴=主人公=読者=著者=わたしたちという置き換えを前提にすると、最後の美鈴の結末、抜け出す、俯瞰、展望というプロセスでやっぱりハッピィエンドに見えてしまうから