森口織人の陰陽道



おかゆ先生ー! 待ってたぞー!
正直、この森口織人の発売で一番嬉しかったのは、販促のためにおかゆ先生がラジオに出まくったこと。作家なのに!
以下、出演した三つの番組、計五回のラジオのまとめ。多いw


電撃文庫webラジオ 喜多村市立竹本学園 第6回‐ニコニコ動画(夏)
TVアニメーション 乃木坂春香の秘密(第17回・18回放送分)
のら犬兄弟のギョーカイ時事放談!(第18回・19回放送分)


で、肝心の『森口織人の陰陽道』だけど、早速読んだ。
率直な感想としては、「ドクロちゃんには叶わなかったなー」というのが、正直なところ。その辺について書こうかな。

ドクロちゃんから引き継がれた部分、引き継がれなかった部分

ドクロちゃんシリーズ=おかゆ先生の魅力っていうのは、ライトノベル屈指のギャグ小説というところにあると私は思う。


端的に言って、その最大の魅力である「ギャグの部分」が薄まった。
原因ははっきりしていて、人称の変化。


ドクロちゃんの地の文では、桜くんの丁寧な語り口調が、話し方は丁寧なのにその内容がナチュラルに変態な方向にシフトしていくギャップ、変態・おかゆまさきによって生み出される変態チックな状況を説明させるギャップ、この落差に、地の文だけで楽しめる、それ自体の面白さがあったんじゃないかな。
この「読むだけで楽しい」という感覚が、『森口織人』では三人称視点になったことで、かなり薄まった感じ。


印象だけど、おかゆ先生の書くものは、極端に言うとギャグとシリアスの配分を9:1くらいにするのが楽しい。
そしてこの1が濃いからいい。ドクロちゃんで夜仮面が出てくるところ、マジでアツくなる。
それがこの森口織人では、なんとなく……ギャグ:シリアスが4:6くらいの感じがして、それが不満といえば不満だった。この4:6は、誰にでも書ける。ライトノベルを9:1で書けることがおかゆ先生のすごい部分だと私は思う。


先にリンクしたラジオ(のら犬〜の19回だったっけな)でおかゆ先生自身が、
「14歳である桜くんの一人称から、今回の作品では三人称視点になったことで、書く側としては色々な言葉が使い易くなった」
とか言ってた。


確かに、「14歳という年齢の主人公の言葉として、不自然ではない言葉」を選んで書かなければいけないのは、作家としては苦しくなることもあるのかも。
ただ、そうして「書く側」が楽になった分、「読む側」は面倒になる、ということもあるんじゃないかな。
森博嗣なんかも指摘してたけど(参照)、この問題は難しい。ただその問題を意識していた、という部分は見ておくべきところだと思う。
ただまぁ、「新しいものを書く」って気持ちで森口織人に取り組んだのなら、一番変化させやすい、引きずらないための変化だったのかもしれない。



対して、引き継がれた部分もある。それは掛け合いのスピード感。これが健在だったのはすごく良かったw

「森口くん、みんなに、挨拶を……」
 転校生を促します。
「は、はい!! 森口織人です! 今日からよろしくおねがいします。ええと、趣味は――」
胃カメラ……(俯いたままの奥山先生)」
「ええッ!?」
全身麻酔に意識を奪われる瞬間が大好き……」
「先生やめてください! 僕、胃カメラなんてまだ一度もやったことないですよ!? っていうかそれは先生が好きなモノなんじゃないですか!?」
「特技は透視(ルビ:クレボヤンス) 」
「クレボヤンスッ!?」
「鉛以外で薄さ二センチまでだったら透けて見えます」
「透けて見えません! というかなんで先生まで『はっ』と赤くなって出席簿で慌ててカラダを隠してるんですか!? しかもあなたの教え子達が全員それを真似していますよ!?」
「みなさん、がんばって織人くんと仲良くしてくださいね」
「「「よろしく、織人くん!(男子も女子も顔を赤らめつつ)」」」
「受け入れられた! いや、だめだ! それは本当の僕じゃない……けど、いいクラスそうで、よかった! よくないけど、本当によかった!」

(p42、43より)
これなんかはおかゆ先生の真骨頂ですね。たまんないww
おかゆ先生の真骨頂といえば、日常の何気ない事柄をさらっと、けれどじわじわくる感じで表現すること、あとはゲームを盛り上げる感じで描き出すこともすごくいい。「ドロフォー」とかは正にそれ。

ちょろっとメモ

◇「目立たせたい一つの文章」がある時(地の文でもセリフでも)に、その文章の両脇一行空けているのが、ドクロちゃんの時より増えてて、なんだか西尾維新みたいだった


◇ルビと祝詞へのこだわりがすごいw 中二病はここまでこだわらなきゃいけないというのは魔竜院光牙様が教えてくれたことですね、わかります。


◇157で気付いたけど、初雪様のふいんき(←なぜか変換できない)が髪、制服、手套(てぶくろ)のせいか、妙に優子っぽい。「これは優子だ!」と妄想結界を発動するとハァハァしながら読める。


◇とりしもさんはいい仕事です。マジで。


◇出会いの装置として、主人公が好きになる相手が落とすものが、学生証でもハンカチでもなく、携帯電話になったってのは時代というか主流になるのかなぁ。そもそもこういったベタはなくなっていくのかもしれない。


◇機転で抜け出すのはシャナの序盤の悠二っぽい。織人がどう成長するのか、あるいはしないのかも(おかゆ作品を読む動機としてはちょっと弱いけど)見所かもしれない。


◇そういえば、あちこちで、あるいは作り手側からもポイントとして示されてる、ヒロインの妄想だけど、それももう一つかなぁ。おかゆ先生がはっちゃけきれてない。DVD版では〜のくだりはニヤリとしたけどw

総括的な

面白いとは思う。でもドクロちゃん読者にはまだまだ物足りない。おかゆ先生は追いかけざるを得ないけど、続刊はもっと面白くなるんでしょ、と重めの期待をかけてみる段階かな。