ひかりのまち―nerim’s note


ひかりのまち―nerim’s note (電撃文庫)
長谷川 昌史
メディアワークス
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再読。ふむぅ、な出来だったんだな、思ったより。
この本を手に取ろうとする人は、要するに「月夜の町ロアを求めて」ページを繰るのだろう。


日黒期。雪虫。時磁石。キックスケート。帯布の推薦文を壁井ユカコが書いていたような記憶があるが、これらのキーワードから見られる、ノスタルジィを感じさせる世界観を、たまらなく求めるがゆえに、この作品には吸引力があったのだと思う。
月夜の町ロア。いいですねぇ。よるのまち。ひかりのないまち。どこまでもいつまでも夜が続く限られた世界の中で、しかし闇は恐ろしくなく、ただぼんやりと黒がぼくらを包み、安らかな空気が波間を漂う。


と、そんな世界観を貫く短編でよかったのだけれど、そういう意味では、ない。まったく違う作品だった。とまぁ、それだけの話だ。よって、金賞だったのやらどうなのやら。
物語の構造と、あとがきから見られる著者の意気込み的には、クビキリサイクルの雛形ともいえるんだよなぁ。


クビキリサイクルは、主人公である探偵役が事件を解決しなくちゃいけない、しかし犯人である「天才」が、事件を見破られてしまっては、それは「本物の天才」足りえない、という矛盾に対して出された答えでもある。
主人公が事件を解決する。しかし、「天才」たる犯人は、そこまで見越していた――という。


対して、このひかりのまちでは、「とにかくすごい万能だった兄」を、主人公が追究していく話ではあるけど、「とにかくすごくて万能」なだけに、最後は主人公がいいとこを見せつつも、結局――という。


ただまぁ、ねぇ。な。
あ、ちなみに、この作品は掛け値なしに評価できる部分がある。性的な意味で(台無し)。