白河夜船


白河夜船 (角川文庫)
白河夜船 (角川文庫)
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吉本 ばなな
角川書店
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吉本ばなな、読んだよ。すこし・ふしぎはよしもとばななのスタイルなのかな? まだ数を読んでいないからわからないけど、こういうことでもいいんだ、と感じ始めてる。
話は。書題の通りだった。とても良い物語だった。死と生のはざまで揺れながら、ひととき落ち着く「ところ」として、眠りの淵という場を設定していたのだと思う。

神奈川県のほうへ泊まりに行って、一日中観光して、夕方帰路についた。私はなんだか一日が終わることがものすごくこわくて、絶望していた。車の中で青信号を呪い、赤信号に引っかかる度にほっとして嬉しさがこみ上げた。東京に戻り、また彼と私がそれぞれの日常へ戻ることが、つらかった。

(p45より)

ああ、これはあるなぁ。週末になるとよく車でどこへともなく出かける家だった。行きはよいよい帰りはこわい。どこへ行くのかもわからないまま走り出す車の中で、子供の私は何が楽しいのか、何かが楽しかった。いつも目的地は違うような場所だったように思うけど、でも、それはある意味で同じようなことだったのだ。ただ、よく覚えている、帰りのなんとない寂しさを。ああ、明日はもう学校だあ、という友達と遊べる嬉しさと言葉にできない子供ながらの気だるさのない交ぜになった、父の丁寧な運転で心地よく揺られる中シートのやらかさに逃げ込んだ暗い夜道を。パーキングでの温かくてなんでもおいしかった食事を。原体験の中で、その重ね合わせの中で、ばななの文章が確かに耳朶を打つ。p74,75もすごくよかった。文庫本を見かける度に手に取ってみよう。